ORIGINAL STORY

惑星間大規模資源輸送船団が、木星から持ち帰ったのはヘリウム3だけではなかった――。

ヘリウム3採取用浮遊基地(通称:Jupiter80)の作業員ノートスは、長期休暇の時におとずれた第三衛星ガニメデで、 小さな黒い真珠のような玉を見つけた。

衛星での物品採取は重罪だったが、ノートスは好奇心に負けて持ち帰ってしまう。

Jupiter80でその黒い玉を眺めていたノートス。
ある日、採取したヘリウム3を吸わせてみると、その黒い玉は小さな甲殻生物になった。

蟹か? ――ノートスは愛着をもってそれを育てることにした。

甲殻生物と疲れた労働者のささやかな共同生活が始まる。
しばらくして、ノートスが部屋に戻ると、甲殻生物は死んでしまっていた。
代わりに、大量の卵を残して。

ノートスは寂しさを感じ、いくつかの卵にヘリウム3を吸わせてみた。
卵は、先代のような甲殻生物になった。
ノートスは先代の面影を感じる甲殻生物を育てることにした。

そのとき、ふと、思ったのだ。

蟹だったら、美味しいんじゃないか?
――そう。Jupiter80で生鮮食品なんて手に入らないからだ。

手のひらサイズに成長した「(初代に似ていない)選外」の甲殻生物を
サッと蒸気で蒸して食べてみた。

めっちゃめちゃウマイ。

蟹とイカとタコとエビを足して濃縮したようなうまみ。
やみつきになりそうだ。
どうやら、ヘリウム3を与えると身体が大きく成長するらしい。

デカくなりすぎないように調整しながら、ヘリウム3を与えて、
プリップリでうまみたっぷりの”シーフードミックス”を食べる日々は、
ノートスにとっては過酷な労働のなかでの束の間の癒やしだった。

そして、”シーフードミックス”を自分だけで独占し、
甲殻生物を栽培して食べていたノートス。

しかしある日、同僚のトマムとイカの焼き方についてケンカしている時。

異常を告げるブザーが、Jupiter80で響いた。

慌てて修理をしようとするクルー。
浄水フィルターに異常がありとのことだが……。

浄水フィルターを交換しようとトマムが蓋をあけると、そこには巨大なヒルが!!
謎のヒルに慌てふためくJupiter80のクルー。
奴らは特殊合金でもバリバリと食い破ってくる。

隔壁を封鎖して避難するクルー。
直後、大爆発の音がする。
ヘリウム3の貯蔵庫が食い破られてしまった――。

顔を青くするノートス。
飼っている甲殻生物が、ヘリウム3を吸ったらどうなってしまうか――。

大きく振動するJupiter80。
謎の巨大生物が施設内で暴れているという一報。

“シーフードミックスだ”ノートスは確信した。

脱出艇での緊急避難が決定されたが、謎の巨大ヒルや、
巨大甲殻類が闊歩するなかでどうやって脱出艇まで向かえば良いのか。

どうしてこんなことに!! 混乱するクルーに、ノートスは真実を告げた。

”あれは、俺が育てていたガニメデの蟹なんだ――”
”なんでそんな馬鹿なことを!!!”
“美味しかったんだ……。美味しかったんだよ……”


口論している場合ではない。
なにか脱出に使える手は無いか?と訊ねられ、ノートスは「ヘリウム3だ」と告げる。
ヘリウム3が主食なんだ。
Jupiter80のヘリウム回収井戸を最大回転させたら、そっちに飛びつくはずだと。

作戦を実行するクルー。
Jupiter80が悲鳴をあげる。

船内のヒルや蟹の大半がヘリウム井戸のほうへ気を取られているあいだに、
脱出艇へ急ぐ。

銃撃戦を経て、命からがら脱出艇へ向かうクルー。
木星のガスを吸い、みるみる巨大化していく謎の甲殻生物。

かつての相棒――甲殻生物は、
Jupiter80を易々と呑み込み、高度を上げていく――。

“くそっ!!! これじゃあ、もうアイツがJupiter80じゃねぇか!!”
“美味いんだって? もったいなかったな。1匹ぐらい持ち帰れれば良かった”
”馬鹿野郎! あんな危険な奴持ち帰れるか”

悪態をつきながらも、無事、脱出艇が発進できたことに安堵するクルーたち。

一行は木星-地球往還船団へと向かうのであった。

ノートスの腹のなかに、カニビルを宿して……。

日本公開版(邦題:シーフードミックス星からのカニビル)公式パンフレットより抜粋